鎌田里苗さんと人気猫くまお「ギャップの秘密」

インスタグラムで大人気の猫「くまお」。ユーモラスな投稿や個性的な愛くるしさが人気で、フォロワーからは“親方”の愛称で呼ばれるなど、くまおファンは日々増え続けています。当のくまおはというと貫禄のある見た目とは裏腹に、じつは“究極のビビり”だそうで。はたして今日は顔を出してくれるのだろうかというドキドキをはらみながら、飼い主の“くまお母”こと鎌田里苗さんにお話しを伺いました。
山で保護された猫のくまお。

── くまおは『湘南鎌倉ほっとさぽーと』が保護した猫で、鎌田さんは里親募集サイト『ペットのおうち』でくまおを見つけたとブログに書かれていましたね。

はい。単身赴任で大阪にいるくまお父(インスタグラムでの愛称 / 鎌田さんのご主人)から「スゴいがいる!」ってURLが送られてきたのが『ペットのおうち』に載っていたくまおでした。それまでもさまざまな里親募集サイトで猫を見てきたんですが、そのサイトのくまおを見た私も、なんだこれ?!って(笑)。すぐ問い合わせて、会いに行きました。


── くまおはどこで保護されたんですか?

横須賀の山です。地域のおじいちゃんがごはんをあげたりしていたそうで。ほっとさぽーとさんは、T.N.R.活動(※)をしていて、山にいる猫の捕獲もしていました。去勢手術を行うためにくまおを保護したんですが、お腹をあけてみたら重度のヘルニアだとわかって。だからくまおは、去勢手術前にヘルニアの手術もしているんです。手術前はヘルニアでもっとお腹がタプタプしていたようです。今タプタプしているのはおそらく自前の脂肪です(笑)。

※T.N.R.運動(「飼い主のいない猫」に対しTrap/捕獲し,Neuter/不妊去勢手術を行い,Return/元の場所に戻す,その印として耳先をさくらの花びらのようにV字カットする)」を実施すること。

── その後、山には戻されずに里親を募集することになった?

術後の安静期間中に「この子だったら里親が見つかるかも。お試しで募集してみようか」となったそうです。サイトにアップされてから3日後に私が問合せを。


── 鎌田さんのインスタグラム見ていくと、くまおを引き取る以前も猫を飼われていたようですね。

そうなんです。ロシアンブルーの“みうさん”という名前の猫と16年ほど暮らしていたんですが、病気で亡くしました。

<お嬢さんっぽい性格だったというみうさん>


── ひとえに“猫”といっても骨格や見た目が全然違いますね。

対照的すぎますよね。みうさんを亡くしてから、私はペットロスになってしまって、似ている猫だとつらくなってしまうだろうなと…。みうさんは、私ひとりで看取ったんですが、最期の介護生活の3ヶ月があまりにもつらすぎました。お別れが来たとき、私はもう一生猫は飼えないってひどく落ち込みましたね。


── ペットロスからはどのように立ち直ったんでしょうか。

くまお父が言ってくれた言葉です。「猫が飼える環境にいて、1匹でも助けられる猫がいるなら“飼う”というのもひとつの選択肢なんじゃない?」。その言葉ではっとしたんです。ひとりで悲しんでいても、きっと1年経っても、2年経っても悲しさは変わらない。でも再び猫を飼うという選択をすることで、私も楽しいし、猫ちゃんの楽しい暮らしの手伝いもできるって。

「くまお」の名前の秘密。

── くまおが保護されたのは何歳くらいだったんですか? 

たぶん3歳くらいじゃないかって。そこからうちに来て3年なので、おそらく今6歳くらいです。


── 「くまお」という名前の由来は?

保護団体の方が「トトロ」と付けてくださっていたんですが、そのより前、里山のおじいちゃんには「ポン太」って呼ばれていたみたい(笑)。


── ポン…。た、たぬき!!??

そうなんですよ。でも、くまおとお見合いをした日「あの子はくまおだな~」となんとなく思ったので、帰りの車中で父に「くまおっていう名前にしたい」と私から言いました。


── 名付け親は鎌田さんだったんですか。

思い切って言ったんですが、父は大反対!「そもそも彼は猫だよ?」と冷静に返されました。普段、否定するタイプではないのでよっぽど嫌だったんだなぁと思います。ほかにも「おもち」とか「だんご」とかいろいろ考えていたんですけどね…、おしゃれな名前は浮かばなかったんですよねぇ。最終的にくまお父が折れてくれました(笑)。

くまお、くまお父をライバル視?

── ご夫婦ともにインスタグラムをされていますが、それぞれくまおとの距離感の違いが出ていておもしろいですよね。とくに、くまお父は…。

はい。くまお父がこの家に帰ってくるのが月に1~2回なので、くまおからすると距離があいてしまうようです。それにちょっと“ライバル視”しているようにも見えなくはない…ですね。


── それは、母(鎌田さん)を取らないでっていうくまおの嫉妬!?

たとえば私と主人がリビングで話していると、くまおはいじけて走りまわったり。あとは、いつも私はくまおとベッドで寝ているんですが、主人がベッドで寝ようとしたら、くまおが怒って私を呼びにきたことも。「俺のベッドに何かいるぞ!」って(笑)。

── あははは。誰かいる、この人、注意してよって? 

そうなんですよー。すごい反応。だから可哀想なんですけど、くまお父はリビングで寝ています。父も「なんかくまおが可哀想だから」ってくまおに気をつかって(笑)。


── くまお父、やさしい(笑)。くまおは鎌田さんのうちに来たときも1ヶ月くらいソファの下に隠れて出てこなかったそうですね。

はい…。みうさんがいなくなって静かなリビングがつらくて、ようやくまた猫との暮らしができる、楽しみだねってウキウキしていたのに「………」でした。


── 気配すら感じない?

物音ひとつしませんでしたね。私がお風呂に入っている隙に、くまおはトイレをこそこそって済ませて、それ以外はソファの下にこもっていましたから。くまおの全貌もわからないし、どういうボディなのかもずっとわからないままでした。1ヶ月後、フラットだったソファの裏面の生地はだるだるに。ずっとくまおはそこを耕していたみたいです。

ゆっくり一歩ずつ。慣れるまで待つよ。

── 臆病なくまおが慣れるために、結果、どんなことをしたのが功を奏したと思いますか?

焦らずにやるしかないって思ったところですかね。でも同じ家にいるのだから、ソファの下でもくまおには楽しんでもらいたくて、ねこじゃらしで遊んだりしていました。


── 本音は早く抱っこしたいですよね。

撫でたかったですね。今は撫でられるのが大好きになったんですが、まだ苦手なことも多いんですよ。掴まれるのは怖がってだめですし、「膝のうえあったかいよ~」って誘っても全然来ない。不思議なのは、ベッドの上だと膝の上に来るんですよねぇ。


── ほかにも“最近これができるようになった”は、ありますか?

お風呂に入ってくるようになりました。バスタブの蓋の上に座って寝ています。あと「くまおー」って呼ぶと、落ち着いているときは何度も返事をしてくれるように。


── がっちりとした見た目とは違って、鳴き声がかわいいんですよね。

ギャップばかりです。この風貌なのに声が高かったり、超ビビりだったり(笑)。筋肉質なのに運動が苦手で、テーブルの上に乗るのが精一杯。山育ちなのに、外へも出たがらないんですよ。


※インスタグラムの動画。クリックすると始まります。

<最近はソファの上にも乗れるようになりました。右はお風呂に入ってきたところ>

── 好きな食べ物はあるんですか?

かつおが好きみたいです。かつおの缶詰は食べるのに、マグロはあまり食べない。人が食べるもので好きなのは、お寿司…。異常な反応を示します。ゴルゴのような顔つきで、ちっちゃくなってハンターの態勢に。


── お寿司!?

今までに唯一、盗み食いされたのがそれです。食事中に私がちょっとお茶を淹れに立って戻ったら、サーモンのネタの部分だけなかったんです!


── サーモン(笑)。くま……

完全に熊です(笑)。隣にマグロもあったんですけど、捕ったのはサーモンだけでした。最初は何が起きたのか理解できなかったんです。くまおが盗み食いをするわけないと思っていたし。で、ちらっと見たら、みょう~に目を合わせないくまおがいて。テーブルの下でペロペロしてました(笑)。…そんなくまおの一面が見られたこともうれしかったです。

<普段のくまおさん。右のテーブルの下がお気に入りの場所>
はじまりは感謝の気持ちから。

── 鎌田さんは、くまおグッズの販売を通して動物愛護団体へ寄付をするなど、ボランティア活動をされています。それにはどういった経緯があったんですか? 

くまおを保護してもらった感謝の気持ちから、何かできたらいいなと思ったのがきっかけです。私はくまお1匹ですら距離を縮めることに苦労したのに、保護活動をされている方々は、それを毎回繰り返されていますよね。ほぼ無償で、自分の時間を提供して。


── 最初に鎌田さんがした活動は何だったんでしょうか。

2016年1月に『くまお くまおが山からおりてきた』という小さな本をつくり、その利益を全額、動物愛護団体へ寄付しました。インスタグラムに載せている写真でつくったので、そういったクオリティですが、趣旨に賛同いただけたらといいなぁと、インスタグラムで呼びかけたんです。初日に200冊以上ものお申込みをいただけました。


── すごい反響ですね。

まさかそんなに注文が来るとは思いませんでした。インスタグラムのダイレクトメッセージでやりとりをしたんですが、みなさんが、くまおに対する気持ちもたくさん送ってくれて。それがうれしくて、うれしくて! モノを売るということだけじゃないことを、そのとき私は見つけられました。


── この本は何冊くらい販売されたのでしょうか。

最終的に500冊くらいですね。寄付先はくまおを保護してくれた『鎌倉ほっとさぽーと』さんと動物保護団体『ランコントレ・ミグノン』さんです。保護猫だけじゃなく、保護犬にも役立てていただこうと思ったので。

── くまお父が撮った写真の本『くまお 塩 くまおが山からおりてきた2』も2016年に?

それは9月に。以前からくまおのインスタグラムを見てくださっている方は『塩』がおもしろいっておっしゃいます。


── 本以外だとポーチやハンカチの販売も。また、秋には個展『くまおが山からおりてきた 秋場所』もされました。

フォロワーさんや支援してくださる方に、感謝の気持ちを直接伝えたかったので、実際に会える機会をと思いまして。色々な方に描いていただいた作品や、くまおパネルを展示したり、ガチャガチャも設置しました。実際に来場者のみなさんとお話ししてみて、必ず聞かれたのは「くまおさんは本当に小さいんですか?」でしたね(笑)。


── 熊本地震が起きた際は、熊本県へも行かれたそうですね。

寄付金をきちんと使ってくださるところへ届けたくて、視察で熊本へ。そのときは「くまお募金」という名前で支援金を募ったんです。くまお本の利益と、中目黒のうどん屋「豊前房」に募金箱を置かせていただいたんですが、それらを熊本・大分の支援先に送ることができました。


── 今後も活動は続けていこうと?

はい。個人でやれる範囲ですが、少しずつ長く続けていきたいと思っています。それに、くまおみたいなタイプはペットショップでは出会えないので、そのおもしろさをインスタグラムやツイッターから伝えられたらいいですね。

人生を変えてくれた、くまお。

── くまおと出会ってから、鎌田さんの暮らしや物事にどんな変化がありましたか?

くまおが、たくさんの出会いをもたらしてくれて、私も新しいことに挑戦をするようになり、ガラリと人生が変わりました。それから、私はフリーランスで働くようになったんですが、決断するときに背中を押してくれたのも、くまおでしたね。家でくまおの顔を見るたび「そうだよな。これで間違いないな」と思わせてくれます。


── 鎌田さんにとってくまおはどんな存在でしょうか?

“福猫”だなって思うんです。くまおがうちに来てくれたことて、私もくまお父も幸せです!


── くまおは、くまお母とくまお父のことをどう思っているんでしょうね。

怖くて聞けない(笑)。私たちのことを好きでいてくれなくてもいいから、「幸せ」だと思ってくれていたらいいなぁ。


── 聞いてみたいですね。

そうそう私は最近、くまおによく話しかけるようになったんですよ。なんとなく通じている気がするので。今日のことも「くまお、明日は取材が来るからね、協力してね」と話してあるので、今ごろ寝室の奥で「そろそろ出番かな」ってソワソワしているはずです(笑)。

CATS PROFILE
くまお
推定年齢6歳(2017年現在)/ 雄 / 出身:横須賀


OWNERS PROFILE

鎌田里苗(かまだ りなえ)
出身:宮城県仙台市 / 職業:フリー MD
公式サイト『くまおが山からおりてきた』 http://www.kumao-neko.com/
くまお母 Instagram / Twitter
くまお父 Instagram

Interview, Edit: Tomoko Komiyama / Photograph: Jun Takahashi