糸井さん、どうしたら犬と猫と人とがもっと仲良くなれますか? 前編

ドコノコやってる? ドコノコやりたい! という声が飛び交う話題のスマホ用アプリ、その名も『ドコノコ』。これはWEBサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」がつくった“犬や猫の写真を投稿するアプリ”なのですが、どうやらクセになってしまう人を続出させているのです。事前情報によると開発期間はなんと2年。聞けばその情熱の根底には、ある願いが込められていました。

お話しをしてくれたのは、愛犬家としても有名な糸井重里さん、そしてドコノコチームのゆーないとさん、藤井さん、冨田さん、佐藤さんです。前編は『ドコノコ』の楽しみ方を、後編では愛犬のブイヨンちゃんについてたっぷり教えてもらいました。どうぞ最後までお付き合いください。


地球上すべての犬と猫に住民登録を。

── ドコノコのリリースおめでとうございます。ダウンロード数はいかがですか?

糸井 いま、毎日変わっているんですけど、野球場満員くらいです。

── 数万件…!?

糸井 もうちょっとあれかな、大きい野球場ではなくて味の素スタジアムくらいですね。

── すごいですね!

糸井 ここまでは来ましたね。

── 実際に犬や猫を登録している人は、全体でどのくらいなんでしょうか。

糸井 4分の3くらいかな。犬猫を飼っていないけど見ている人が、4分の1くらいいるみたいです。

── 使っている方の感想はどうですか?

糸井 みんな夢中になってますね。自分の子だけじゃなくて、よその子も好きになったって聞くことがいまのところ一番多いかな。

── 「ひろば」にみんなが投稿した写真が続々と流れてきますね?

糸井 見ちゃうとクセになってずーっと見ちゃいます。

── えぇえぇ。わかります!

糸井 あとは、亡くなった子たちの居場所ができた気がする、という声もあります。撮っておいた写真を載せて、思い出のかたちとして保存できるんです。

── なるほど。いま一緒にいる子だけじゃなく。

糸井 それでほかの人たちの写真も見てるんですよね。

── やっぱり犬や猫って見てるだけでも楽しいんですね。

糸井 僕ら自身がそうですから(笑)。

── インスタグラムやタンブラーなど写真を見せるアプリはたくさんありますが、そのなかで、いまなぜドコノコをつくろうと思ったんですか?

糸井 そのなかでという気持ちは全然なかったんです。ほかのアプリは考えてなくて。ただ単に最初は、地球上の犬猫がみんな登録されればいいのに、と思ったんです。

── というのは?

糸井 そしたら誰が可愛がっている子なのかがはっきりするし、外から見ても「あのわんちゃんは、あそこのうちの子だ」とわかったほうが責任が出るじゃないですか。

── 飼い主だけじゃなく、みんなが犬や猫にたいして責任をもつようになる、と。

糸井 人間の子どもが迷子になったら、まわりの人たちが「どこの子?」ってなりますよね。でも、たとえば飼い猫が迷子になったら「ノラの子」というふうになってしまって、見えないことになっちゃうんですね。

── そう思ったきっかけがあったんですか?

糸井 迷子になった犬猫を探してください、というツイートがよく来ていたことがきっかけです。

──糸井さんのツイッターに。それは見つかるものなんでしょうか。

糸井 ときに見つかるんですよ。

── おお、すごいですね!

糸井 それがドコノコをつくるときの直接のきっかけですけど、その前に犬や猫を捨ててしまう人がいることや、保護猫の行き先がないことを知っていて、誰の子でもないという状態が一番気の毒だと思っていました。

── 飼い主のいない犬や猫はまだまだ多いですから。

糸井 最初、アプリの仮タイトルが「KaZoK(家族)」だったんです。

── 家族!?

糸井 みんなが誰かの家族だったらいいのにというコンセプトでした。

“知る”は、好きのはじまり。

糸井 やっぱり僕自身もそうだったんですけど、犬は好きだったのですが、猫のことはあまり思っていなかったんですよね。

── そうだったんですか? それはちょっと意外です。

糸井 動物愛護団体と知り合ったり、まわりに猫が好きな人が増えると、付き合いで猫を見るようになるんです。

── 付き合いで? ええ。

糸井 そうすると、ノラの子がいるなってわかるようになって「タフだな~」と感心するようになる。でもまだ、猫が命の危険をさらして生きているという実感はないんですよ。

── 猫は外で生きていても平気なのだろうと思っていた?

糸井 んーなんでしょう。野生の動物が都会にいるということを、仮にねずみがいるのと同じように見ていたんです。都会で飼い主がいなくて生きている、遠くて尊敬するものという存在だったと思います。

── その次はどうなったのでしょうか。

糸井 さくら耳(※)のことを知ったり、だんだんとノラ猫を世話している人がいることを知りました。ノラ猫は4、5年で死んでしまうというはなしも聞きますが、誰かが飼い主になってくれたほうが、本当はいいんだなぁと思うようになりました。

※避妊・去勢手術をすでに受け、そのしるしとして、耳の先が桜の花びらのような形にカットされた地域猫のこと。

── 徐々に考えが変わっていったんですね。

糸井 なじむことで好きになるんですよね。道を歩いているときに猫を見かけて「猫だ!(怒)」っていう人と、「あ、猫だ!(嬉)」っていう人の2種類がいて。知ると後者になっていくんですよ。そうなってくれたら猫に対していじわるをする人とか、冷たい目で通りすぎる人がいなくなって、命同志としてみるようになりますよね。

── なじむための第一歩として、ドコノコを利用できる?

糸井 ドコノコを始めたら「自分は飼っていないけど、近所でノラの子の面倒見てる人がいるから、その猫を撮っています」という人がいて。それで「お手伝いできることがあるかもしれない」と言い出したり。

アルバムとして使える「マイブック」


── さっそくノラ猫の存在に気づいた人がいたんですね。

糸井 知るって好きになることの始まりなんです。写真を撮ることもそうですが、“見る”からはじまるドコノコに住民登録することが、すごく大事なんだなって、そんなことを思ったんです。やる前に思ったことですけど、やったら案の定なりました。

──それにしてもノラ猫は…、一生懸命生きているんですねぇ。

糸井 やっと生きてる。強く思えてたんですよねぇ。ノラの子って歌や漫画のテーマになりますからね。

── 事実とは違う刷り込みが…

糸井 あると思うんです。「抱っこされてる犬や猫と俺は違うんだ」、「ノラの子は誇りある人生なんだ」って。でもそれだけの見方はちょっとつらいです。

── まさに糸井さん自身の実体験でもあったんですね。

糸井 自分のなかでも「え~こんなに変わるんだ!」ってビックリしました。どっちがいいかと言えば両者のことが分かるほうがいいわけで。

── 知ることの大切さがわかりました。

糸井 少なくとも、町でやっとがんばって生きている動物たちから、それぞれの飼い主たちに愛されている動物たち、それから愛されなくなってしまったかもしれない動物たち、ぜーんぶ誰かが見ててくれるようになってほしいなって。もしかしてうまくいくと実現するかもしれない!


犬・猫をナンパする場所!?

── ほぼ日さんは、動物保護団体ランコントレ・ミグノンの活動を応援したり、「いぬねこなかまフェス」のお手伝いをするなど、保護犬・猫の存在を広める活動もされています。きっかけは何だったんですか?

ゆーないと ドキュメンタリー映画『犬と猫と人間と』で犬猫の殺処分の問題を取り上げていて。それを観てからかな。

糸井 それがいい映画でね。ああいうスタンスで語れるようなことがあるといいなって。で、そんなときちょうど産まれたばかりの子猫を見つけて。

ゆーないと 私が見つけちゃったんです。

糸井 坂本美雨さんに相談してね。

ゆーないと 美雨さんから、ミグノンの友森さんを紹介してもらいました。いっしょに捕獲して。ツイッターで里親を募集して、それぞれに届けに行きました。飼い主さんとはいまでもつながっています。

糸井 そこからやがて3.11の震災があって、友森さんのところに大量の犬猫が来ました、というのを知るようになったんです。うちの社員でミグノンからもらった人の数、けっこういるんじゃない?

ゆーないと 5組かなぁ。

糸井 合計8匹くらいですね。

── それってけっこう多いんじゃないですか?

ゆーないと 動物好きな人が、この会社に集まっている気がします。

糸井 藤井さんは実家の子でドコノコやってるよね?

藤井 お留守番が長いと可哀相だから、私は飼っていなんです。だから実家の犬でドコノコをやってます。毎朝、母から写真を送ってもらって(笑)。

── それもまた新しい楽しみ方ですね。

藤井 もらった写真を私がアップする。ついでに母が元気だってこともわかります。

── 毎日メールが届くから!

糸井 それもおかしいよね。

── 犬や猫って、飼っているいないに関わらず見せたくなりますよね?

糸井 うんうん。

── ドコノコはその“見せたい欲”が満たされるなって思います。私はインスタだとちょっと控えてしまうんですね、うちの犬を見せるのは。

糸井 そうですか。そのへんちょっと教えてください(笑)。

── 犬好きじゃない友達もきっといると思うので、なんとなくですが。この人、犬の写真ばっかりあげてるなって思われちゃうんじゃないかなぁとか(笑)。

糸井 あぁ~!

── でもドコノコだったらためらいなくできます。

糸井 犬猫以外はだめですからね(笑)。

── のびのびと発表する場ができたなって、同じように感じている人も多いんじゃないかと思います。

糸井 やっぱり知っている人んちの犬猫のことは見ますよね。あと知らない犬や猫でいいのがいっぱいいますよねぇ。ドコノコにナンパしにいってるみたい。

── 本当どの子もかわいいんですよね。“写真”という点で、前から思っていたことがあるんですが…、同じ犬や猫でも撮る人によって、顔が全然違いませんか?

糸井 違います、違います! あのね、愛情の分量が見えてるんですよね。愛情を込めた飼い主の目が見えるんですよ。だから好きになるんですよねぇ。

主役は犬と猫。

── ドコノコは、自分の投稿にコメントをくれた人に対して、直接お返事ができないんですよね?

藤井 ほかのSNSと比べてもっと気軽に“いいね”ができるようにしたかったんです。

ゆーないと 文字数も少なくして、写真を“いいね”し合うだけのコミュニケーションを、と。でも、みなさんもう少し深いところでつながりたいと思っているようなので、そこは今後どうしていこうかなぁというところですね。

糸井 人間同士の通信ツールになっちゃうと主役が人間になっちゃうんで、そこをほかのSNSとは違うということで通せないかな~って。

── ドコノコの機能にある「迷子探し」は実際使われているんですか?

糸井 迷子は機能するとは思うんですけど、実践はないですね。あっちゃいけないんですけど。それにいまの登録数くらいだと全国に広がってないですからね。まだ東京と地方の差があるかもしれないです。

── どうやって広げていく予定ですか?

糸井 ほんとうに手仕事に近いんで、たとえばのはなし、テレビコマーシャルをうってということもできないですし。でも、犬や猫を飼っている人はドコノコで写真を見せたい一心で「機種変した」とか「買い替えた」っていう話しも聞きました。

藤井 1ヵ月我慢できなかったみたいで。

※iPhone版は6月5日、Android版は7月28日にリリース。

── えー!? ドコノコをやりたすぎて? それは開発に費やした期間も報われますね。

糸井 まだひっきりなしに直してますけどね。少しずつ良くなっているはずです。ちっちゃい所帯で少ない人数で始めるには、なかなか大変でした。

── 開発費用もかかりますし、無料でダウンロードできる。採算的なものはどうなんでしょうか。

糸井 あとでなんとかなるんじゃないかな?

── なんとかなる??

糸井 うちそのものが、そうやってできてきたので。ほぼ日は、当初一銭にもならず何年もやってましたから。人が集まれば何かは始まると思うんです。必ずしも広告でやるとは限らなくて。何かあれば、なんとかなるんじゃないかな、と。

── ドコノコはどういった使われ方をされたらいいなと思いますか?

糸井 やっぱり自分ちの子の写真をあげて楽しんで、よその子を楽しむのが基本じゃないでしょうか。最初に思いついたきっかけは迷子のはなしなんだけど、あっては困ることですから。

── 純粋に写真を見て楽しむ、と。

糸井 毎日のナイトキャップみたいに見るとかね。

── いいですね、寝る前に。

糸井 自分の好きな子をじーっと見て、フォローして、ペットといる暮らしを味わう。基本はそこじゃないかと思います。だって、お花の写真が増えてもねぇ?

── そうですね…。

糸井 すごく綺麗だけど…。あ、それやってもいいな(笑)。

── (笑)

糸井 でもこんなにはおもしろくないと思います。あるいは建物の写真を見ても、こんなにはおもしろくないので、趣味のものとしては最上のコンテンツです。

── たしかに、高揚感といいますか、笑顔になれる数が違います。

糸井 何よりうちは“自分たちが欲しいものをつくろう”が基本なんで、一番楽しかったのは自分たちかもしれないですね。だからどう扱って欲しいですかって聞かれたら、楽しんでくれればいいなと。

ナンパの成果は…!?

── 糸井さんは愛犬ブイヨンちゃんの写真をドコノコにアップしていますが、楽しいと感じるのはどんなときですか?

糸井 ブイヨンの写真は何年もほぼ日にアップしてたので、写真をあげる側の喜びっていうのは、僕はいまそんなにないんです。それよりは、よそのおもしろい子を探すのが楽しい!

── いい子いました?

糸井 いま、夫婦ともに別々に見つけて教え合ってるのが“ヨウカンさん”ですね。もともと人気だったようですが。

ゆーないと 『うちの猫ら』(オークラ出版)っていう本も出してて、過去には猫を10匹くらい飼っている時期もあって。いまは6匹いるみたいです。

糸井 そのなかの主人公が“ヨウカンさん”といって。たまんないんだよね~!(ドコノコでヨウカンさんを検索…)

── わぁ! なに、この表情!?

ゆーないと 足も鳥みたいで。

糸井 開くんだよね。ときどきじっと手を見てるんだよね。

冨田 表情が人間っぽいんです。

ゆーないと おじさん!

── え? 猫なのにおじさん!? 私も見たいです…。

糸井 この子貰われてきたとたんにその顔してたよね?

ゆーないと そうそう。これこれ、家に来た記念日の写真!

糸井 すでに老けてる (笑)。

ゆーないと 子猫なのに。

糸井 老けてるー!(笑)

── こうやってお互いに教え合ったりするのって楽しいですね。

糸井 たとえば緑の中に放し飼いみたいにいる犬って、東京ではめずらしいじゃないですか。それだけでいいんですよねぇ。

── そういう写真は見ていて気持ちがいいです。

糸井 (さらにドコノコで犬を見ながら)でも寝るときゃ同じなんだな、とか。

糸井 お散歩は自転車なのか?(さらに見ながら)お、寝るときは同じだな。猫といるのかぁ。うん、寝るときは同じか…。……。

一同 (笑)

糸井 あ、見始めると、見いっちゃうね。

── またいい子を見つけちゃったみたいですね(笑)。

糸井 たのしいなぁ。


<後編へつづく>


『ドコノコ』の詳細は、ほぼ日刊イトイ新聞のドコノコページでご覧いただけます。

https://www.dokonoko.jp/

『ドコノコ』のダウンロードはこちら

▼App Store  ▼Google Play

PROFILE

糸井重里 (Shigesato Itoi) 

1948年生まれ。コピーライター、ほぼ日刊イトイ新聞主宰。有名無名を問わず、多くの人々が膨大なコンテンツをつくり続けるウェブサイト、ほぼ日刊イトイ新聞を1998年から毎日更新し続けている。最新著作に、ほぼ日刊イトイ新聞に書いた心にのこることばを厳選してまとめた『忘れてきた花束。』『ふたつめのボールのようなことば。』(東京糸井重里事務所)がある。

ほぼ日刊イトイ新聞は、有名無名問わず、さまざまな方へのインタビューやコラムなどあらゆるコンテンツがすべて無料で楽しめる。また、「ほぼ日手帳」を代表とする生活関連商品を開発し、おもにサイト内の「ほぼ日ストア」で販売している。2016年6月にアプリ「ドコノコ」をリリースした。

写真は左から佐藤さん、糸井さん、藤井さん、ゆーないとさん。


Interview, Edit: Tomoko Komiyama / Photograph: Jun Takahashi