保護猫つぐみと愛娘「姉妹のような1匹と1人」

猫エイズのキャリアをもつ保護猫つぐみちゃん(7才/メス)と暮らす寛明さん、有里さん夫婦は、つぐみちゃんを引き取った2年後に子どもを授かりました。今4才になる娘さんが自閉症スペクトラムだと診断されたのは2才になる誕生日の前。

「つぐみと娘はよく一緒にお昼寝をしています。娘が寝たあとつぐみがそっと隣に行くんです。お互いがたまにちょっかいを出しつつ、それぞれのペースで過ごしています」

娘さんが自閉症だとわかった時の心境について「ショックはあったけど、その前につぐみの猫エイズ(猫免疫不全ウイルスによる感染症)で、生死に関わる大きなショックを経験していたから動揺は少なかったかも。当時と同じように時間が解決する、日常に溶けていくだろうと、慌てることはありませんでした」と有里さんは言います。
愛情深く育ててきたつぐみちゃんを引き取ったのは、6年前。2011年3月5日でした。きっかけは、15年ぶりに再会した有里さんの友人。猫の保護活動をしていたその友人の母親を介して、つぐみちゃんがやって来ました。猫エイズだとわかったのは、つぐみちゃんの避妊手術の時。有里さんは当時、ショックのあまり涙が止まらなかったそうですが、それもいつの間にか生活に馴染んでいったと話します。

「つぐみが保護された時は猫風邪を患っていて。その後も皮膚炎や歯周病など、常に何かしらの病気と付き合っているんです。歯周病はひどく、昨年すべて抜歯したんですが、ごはんはちゃんと食べられるんですよ。今も毛が生えないところがあったり、腎臓の機能を維持させるための療養食と投薬が必要ですが、体調は落ち着いています。当時週一だった通院も、現在は月一の定期検診のみとなりました」

猫エイズは、免疫力が低下するため病気を発症しやすいのが特徴。人に感染するものではなく、猫にストレスをかけずに病気とうまく付き合えば、エイズを発症せずに天寿をまっとうする子も少なくない。

「病院の先生たちには治療意外でもとても助けられましたね。院内に入ると大泣きする娘のことを気遣って、駐車場に着いたらつぐみだけを迎えに来てくれ、診断内容は電話で、会計も駐車場でしてくれて。『娘さんのことでお母さんがつぐみちゃんを連れて来られないなら、病院側の対応としては当然のことです』と声をかけてくれました。その言葉に、通院するのが一苦労だった私の心は救われました」
有里さんは「医療費はかさむけど、共働きで贅沢をしたいわけでもない、つぐみのためだから」と明るく、流れに逆らわないといった様子が印象的でした。

「実は、ここに家を買う決め手となったのも猫がきっかけだったんです。土地を見に来た日、私たちの周りに野良猫が5〜6匹集まって来て。その子たちにゴロゴロ、すりすりされて『ここに住んで猫を飼おう!』と決めたんです。不思議なことにその後、猫たちとは一度も遭遇しないんですが、その時から友人との再会や、つぐみと暮らすこと、延いては娘を授かることまでつながっていたんじゃないかと思うんです」

新品のカーテンやソファに登ってはボロボロにするなど、かなりのやんちゃっぷりも発揮しているつぐみちゃん。取材時はこちらの手を舐めてきたりと終始歓迎ムード。

「つぐみは人なつこくて、優しくて、友人たちが家に来れば必ず輪の中心にいるような子です。かまって欲しいわけではないんですが、人が好きなんでしょうね。娘ができてからは、主人の膝の上がつぐみの定位置。いちゃいちゃしてますよ(笑)」
有里さんは、つぐみちゃんと娘さんについて「私たちにとって“猫エイズの”つぐみ、“自閉症の”娘という特別な認識はないんです。つぐみと娘なんです。彼女たちとの生活からは、今まで知らなかった色んな世界が見えてきます。いつも私たちに多くのことを教えてくれるんです。夜中の授乳が大変だった時に、いつも付き合ってくれたつぐみへの恩は一生忘れません」

そこには、にこやかに過ごす家族の姿がありました。

Photograph: Ari Takagi / Interview, Edit: Tomoko Komiyama