岡野民さんと点子、黒助「人生2度目の猫との暮らし」
段ボール箱の中にいた、捨て猫の点子と黒助。
そうなんです。鼻の下にほくろみたいな柄があって尻尾の先が白いのが点子、ハチワレ模様が黒助。宮城県大崎市にある蕪栗沼の駐車場で、段ボール箱に置き去りにされていた捨て猫でした。嵐の翌日に、見回りをしていた市の方が発見し保護していたんです。
──発見されたときどんな状態だったんでしょうか?
へその緒が付いていて、昨日産まれたんじゃないかってくらい小さかったそうです。最初4匹いたんですが、2匹はだめだったのかな……。
──そのとき生き延びた2匹が点子ちゃんと黒助ちゃんなんですね。どういった経緯で民さんのところへ?
発見した方の住まいが猫を飼えないマンションだったので、里親を探されていて。それで声がかかったのがうちの主人だったの。主人は、東北の震災を機に宮城県の人たちと縁ができて、仕事でそこへ通っていたんです。
──またなぜ、旦那さんに声がかかったんでしょうか。
「嫁が猫好きで」と言っていたのか、何かを嗅ぎ付けられたのか(笑)。猫が拾われてすぐに「飼いませんか?」って写真が送られてきたんです。でも私は、すぐに飼おうと決められなかったんですよね。
猫とはのんたんである。
──民さんは猫好きなのに、なぜすぐに貰おうと思わなかったんですか?
その話しがくる2年前、私が10歳のころから飼っていた猫を亡くし、まだ猫を飼う気になれなかったんです。その子の名前は“のんたん”といって、尻尾のない真っ白な子でした。私は結婚してから実家を離れていたから、最後は父が看取ってくれたんですが、子供だった私が36歳の大人になるまでその子がいたので……。
──傷も癒えていないのに、猫を飼う気になれるわけない、と。
「私にとって猫とは、のんたんなんだ!」って思っていましたね。亡くなって1年くらい、ちょっとしたペットロスになるほど悲しんでいたし。だから主人に「そろそろ猫どうかな。白と黒なんだけど、どう?」なんて言われても「そういう問題じゃない!!」って感じでした。
猫を飼うことは、最期まで責任をもつということ。大変だとわかっていたし、私たちは出張も多いので、よく考えました。でも2匹の子猫の写真を見せてもらったとき「そろそろ、そういう責任を引き受けてみようかな」と思えたんです。震災があって、与えられた人生を精一杯生きたいと、あらためて思ったことも大きかったと思います。
当初は1匹だけ、どちらかというと白い方(点子)がいいなぁと。尻尾の先の白い「点」に運命みたいなものを感じていたので。それで主人の仕事に合わせて、猫を見に行く計画をしていたんですが、当日私が熱を出し行けなくなってしまって。そしたら主人が2匹とも貰ってきたんです(笑)。
──あれれれ??
ゲージに2匹を入れて、宮城県から新幹線に乗って帰ってきました(笑)。「2匹を保護して育ててくれてた方も2匹なら一緒に遊びますよって言ってるし、仲も良いし引き離せない」って。
点子は愛人!? まったく性格の違う2匹。
──旦那さんも“猫好き”だったとか?
ではないんです。でも動物好きで、犬は飼っていたことがあったんですが、猫はないですね。
──いきなり2匹の猫と暮らすことになって大変だったんじゃないですか?
発見した方が、生後2か月まで育ててくれていたので人慣れしていたし、しつけもほとんどされていたので、とくに問題はなかったんです。おもしろいのが、同じ親から生まれて同じ環境で育っているのに、2匹はまったく性格が違うんですよ。
──へえ! どんな性格なんですか?
メスの点子は猫らしい性格。何かわからないものに対してちゃんと警戒心をもっていますね。例えばうちの2歳になる子どもにも不用意には近づきません。オスの黒助は子どもには無防備に近づくから、尻尾をひっぱられたりしてる。あと上を向いて寝るんです。階段で寝ててたまに落ちてます(笑)。
──今日黒助ちゃんは奥に隠れてしまったので、そんな性格だったのは意外でした。
マイペースで甘ったれ、臆病なの。掃除機を出す音がしただけで、いえ気配でダメ、ですね。我が家にそんな端っこがあったのかってくらい端に逃げますよ。
点子がお姉さんぽいというか、母性があるかな。黒助が点子にぺとっとくっついていると「はいはいはい」と黒助を舐めてあげていたり。黒助は「ついでにお腹もなめて~」って甘えています。
──逆に点子ちゃんが甘えることはないんですか?
あまりないですね。それより点子は主人が好きです。毎朝主人に抱きついてます。
──え! どういうことですか!?
しがみつくんです、腕に、ぎゅっと。愛人なんじゃないかなってくらい(笑)。主人の腕にまとわりついて、私はそれを横目に「なんでそんなにイチャイチャしてるのかな~」と思いながら朝食を食べているんです。
うれしいみたいですよ。
──ですよね。旦那さんが仕事へ行ったあとの点子ちゃんは……?
じゃあ寝るわって、ヒューてどこかへ行っちゃう。主人がいないからといって、じゃあ私でいいってことではないらしく。相性なんですかね。
この一瞬を楽しみたい。
──猫たちがやんちゃ盛りのときに民さんは第一子も出産されました。慌ただしい日々のなか、苦労されたことはありますか?
やっと子供が寝るかと思ったら、猫たちの追いかけっこが始まって「もーー!!」ってなっちゃったことはありましたね。あと、掃除にとても気を使っていました。毛足は短い方だけど2匹分毛も落ちるので「ハイハイが終わるまで猫を実家に預けようかな」って主人に言ったことがあって。そしたら主人が「そんなこと言うなら僕が猫と出ていく!」って。
──えー!!!
そっちーー!?って(笑)。切羽詰ってそう言ってしまったんでしょうけど。これは今でも笑い話です。
──旦那さんもすっかり猫の虜になっていたのがうかがい知れます(笑)。でもこの家は猫にとって遊びたくなるようなつくりですものね。
もう朝晩追いかけっこですよ。点子は換気扇の上に登って、棚をタタターって滑走。黒助は反対側で待ち構えて向かい打つみたいな(笑)。あと、猫たちが自由に家の中を歩くものだから、お米の入っていない炊飯器の炊飯ボタンを押されて炊かれちゃたり、その逆も。
4年前に行ったイスタンブールで、すごくいい陶器のフルーツボールに出合ったんです。重たいけどこれだけは買って帰ろうってがんばって持って帰ってきたんですが。
──あぁ……。
猫たちが追いかけっこした勢いで落とされ粉々……。そんなところに置いていた私がいけないんですけど。リンゴとか入れて楽しんでいたのになぁ。
──でも賑やかで。楽しそうです。
もちろん! 可愛いですよ。元気なのも、走っているのも、若い感じもすごく楽しみたい。だんだん年をとると、そんなに走り回らなくなりますからね。今だけの可愛さを大事にしたいんです。その時々を楽しみたい!
切なくて、愛おしい、成長。
──2匹と暮らしてみて何か気づいたことはありますか?
“猫の生活”みたいなものがある気がします。ほっておいても猫同志で勝手に遊んでいるし、2匹で仲良く寝ている。みんなで暮らしているけれど、この家の中には「人間の時間」と「猫たちの時間」がある感じです。
──ほどよい距離感があるんですね。
点子は棚の上で寝るのが好きで、上から下を見ているんですが、最近大人になったのか、一人でいたいときも上へ行くの。成長のちょっとずつが切ないというか愛おしいというか……。本当、長生きしてもらいたいなぁ。
──大人になってきた点子ちゃんと、臆病でマイペースな黒助ちゃん、“人に例えると”どういうタイプだと思いますか?
点子はよくできた完璧な秘書ですね。大企業の役員を支えているイメージ。しっかりしているんですよ。すごいなって思うことがあるんです。
──へぇ。どんなところで?
トイレとかすごく綺麗なんですよ! 用を足したあと、いつまでやってるんだろうってくらい整えてますね。砂場全体から砂をかいて、枯山水のプリンみたいに。
──(笑)。黒助ちゃんはどうですか?
働かない執事、でしょうか。見た目が燕尾服を着ているようだっていうのと、何もしてないから。でもまあ、家の見回りはするし、息子の見守りもしてる。点子が秘書っぽく感じるのはそんな黒助のお世話をよくしているからかもしれないですね。
──対照的でおもしろいです。
ねぇ。やっぱり生き物とくらすのはいいなってしみじみ思いますね。のんびりしている時間や、喉をゴロゴロ鳴らしてたりとか。それぞれが自由に、同じ空間に生きていると感じるし私もリラックスできます。勇気をもって飼ってみてよかったなって思います。
日々、猫たちから学ぶことがあるんですが、子育てをしていく中でも、私を大らかにしてくれますね。点子と黒助が“猫である”以外まったく違うという、これってすごく大事なことで。黒助に「なんでそんなに臆病なの」と言ったところで、そうであることはどうしようもなく。その「どうしようもないもの」が、生まれ持ったその子そのものなんだなって気づきました。
CAT’S PROFILE
黒助(オス / 2012年4月2日頃生まれ)、点子(メス / 2012年4月2日頃生まれ
OWNER’S PROFILE
岡野 民(おかの たみ)さん
デザインや建築・インテリアを中心に手がける編集者/ライター。雑誌『Casa BRUTUS』でコントリビューティング・エディターをつとめるほか、『BRUTUS』、『暮しの手帖』などで活躍。NPO、Think the Earth プロジェクトの書籍も手がける。
Interview, Edit: Tomoko Komiyama / Photograph: Jun Takahashi
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