小林マナさんとギルバート、ジョージ、マロン、ココ
先住猫はギルバート&ジョージ。そこへ白猫マロンがやってきた
──マロンちゃんは千葉の海岸で拾われた子なんですね。
まわりに兄弟もいなくて、マロン一匹だけだったようです。友人が見つけて拾ったのですが、目も見えないのに、ピーピー鳴きながら助けを求めていてらしいです。目があいてなかったので、おそらく産まれて2~3日。生命力があったんでしょうね。
──その友人からマロンちゃんを譲り受けたんですね。
はい。マロンが生後3ヶ月位のときです。その友人は、海外でも活躍している現代美術のアーティストで、よく猫を拾ってしまうそうなんです。それをマロンも察知して鳴いていたんでしょうか。私がその友人とちょうど一緒にプロジェクトをやっていた時に、マロンの話しを聞いて「じゃあ私が面倒みる」となりました。
座り方がなんか変なんですよ。後ろ足が見えないんですよね(笑)。内股というか…太っているんですよね。
──あははは! あ、笑っていたらマロンちゃん怒ってカメラマンの手を噛んでます。
昔から噛み癖があるんです。これでも噛まなくなったんですけどね。
──今14歳のギルバートちゃんとジョージちゃんがいて、2008年にマロンちゃんが加わりました。どんな変化がありましたか?
マロンが来てから、ギルとジョーが痩せはじめて。私たちも、マロンを子猫だからとあなどっていたら、この子、生命力が強いようで、ごはんをすごく食べてしまうんです。以前のギルとジョーは同じお皿からご飯を食べていて、お互いちょうどいいところでやめて、またお腹がすいたら食べる、といういわゆる“猫食い”タイプだったんです。
──マロンちゃんだけ、猫食いタイプじゃなかった。
ある日私たちが2泊3日の旅行に行くことがあって、2~3日留守にしても大丈夫な量のご飯を、お皿に入れて出かけました。で、帰ってきたら、全部なくなっていたんです。おかしいなと思って、そのあと猫たちを観察していたら、マロンだけがいつまでも食べていて、どうやらあるだけ全部食べてしまう子だと判明したんです。きっと旅行に行ったときも、1日目にマロンが食べ尽くしちゃったんじゃないでしょうか。それ以来、旅行や出張時は友人に頼んで見てもらうようになりました。
お皿を分けて、必ず食べ終わるまで見ているようにしました。マロンがそんな風に全部食べてしまうので、ギルとジョーも「自分たちの分が食べられちゃう!」と食い意地がはってきて、置き餌が全くできなくなってしまったんです。
──3匹はすぐに仲良くなったんですか?
先住猫たちに気を使って、最初の1ヶ月位は玄関にマロンを住まわせて、部屋の中にはすぐ入れないようにしていました。初秋だったので、玄関にはホットカーペットを引いたりしてましたね。それと日中は、マロンを事務所に連れて行くなど、3匹の猫が会うのは、私たちがいるときだけにしました。マロンは兄弟がいない状況で育ったので、噛むのも常に本気噛み。しょっちゅうギルやジョーをうんざりさせていました。なので慎重にお互いの様子を見ていました。
ところが冬が近づいてきたら、「寒いね」ってなったんじゃないでしょうか。寝ているギルとジョーの中に、マロンが入って段々一緒に寝るようになりました。
なかよし兄弟ギルバートandジョージ
──先住猫のギルバートちゃんとジョージちゃんは、親戚の友達のうちで産まれた5匹の猫のうちの2匹。なぜこの2匹を選んだのですか?
昔から動物が好きすぎて選べないんです。どの子も可愛いと思ってしまうんです。子供の頃は実家で犬、猫、ハムスター、インコ、アヒル、うずらを飼っていたくらい(笑)。全部私が拾ったり見つけてきたりしてました。
5匹の猫に会ったその時も、私に興味をもってくれた黒猫にしようかとも思ったのですが、物陰に隠れているギルとジョーを見つけたんです。好奇心の強いジョーがトコトコーっと出てくると、奥でギルがニャーニャーと鳴く。それを聞いてジョーが、ギルのところへ戻るんです。またジョーがちょこちょこと出てくると…、ギルがニャーニャー。それを繰り返していたから、この2匹を離しちゃいけないなと思ったんです。雄のなかよし兄弟だし、猫2匹がいる生活もいいなと思ったので、一緒に連れて来ました。
──マナさんたちと、ギルバートちゃん、ジョージちゃんはすぐ仲良くなれたんですか?
家に来たときも、ギルとジョーの関係は変わらなくて、ベッドの下に隠れて出てこなかったのですが、少しずつ私たちに興味をしめすジョーと遊ぶようになって、ギルも徐々に慣れていきました。あとブラッシングが気に入ったようで、ブラシでトントンッと音を立てると、出てくるようになりました。遊びをとおして早く仲良くなれて、慣れてからはもうべったりです。
納戸にいます。玄関のチャイムが鳴った瞬間に入ってしまうんです。
──家族以外の人の前に無理矢理出すとどうなるんですか?
ジタバタというかフリーズ(笑)します。恐がりですからね。以前“気配を消すカメラマン”が取材でいらした時はいつの間にか出てきていて、びっくりしました。犬のココはずーっとここにいます。「あそこ撮りましょう」ってカメラマンが言うと、どうやらわかっているみたいで、トットットットーって歩いて行って、カメラマンの方を向いて座っていたりしています。
預かりボランティアの始まりは、被災地にいた大型犬
──ココちゃんの話しになったので、動物のボランティア活動について聞いてみたいのですが、現在マナさんは動物愛護団体ランコントレ・ミグノンが保護した犬の、家族が見つかるまでの一時預かりをしています。そもそもボランティアをしようと思ったきっかけは何だったのですか?
2011年3月11日に起きた、東日本大震災がきっかけです。被災した動物の置かれている状況を知るにつれて日本の動物事情が見えてきたんです。
──ミグノン代表の友森さんとはもともとお知り合いだったのですか?
彼女を知ったのはツイッターです。友人のリツイートを見ていたら、被災地に毎週行っている、なんか凄い人がいるなーとフォローしたんです。その人が友森玲子さんでした。「救援物資は毎週水曜の夜までに、店の前に置いといてね。夜中に出発するから」とか「犬のケージの上で仮眠を取ったから大丈夫」とか「シェルター用のプレハブが必要だな」、「よし、手に入れた」とか呟いていて、平日はペットサロンを経営し、定休日は被災地に行っていて、震災以前から愛護センターから動物を引き出して、譲渡する活動をしている人だとわかっていきました。
──実際に友森さんと会ったのは、そのあとですか?
“被災動物チャリティーイベント いぬねこうし祭”というのを主催されていたので、そこで友森さんに挨拶したら「内装の設計しているんですか? 今日ちょうどシェルター用の物件を借りてきたところなんです。やってください!」ということになって、その4ヶ月後にはシェルターができ上がったんです。私が図面を引いて、色んな人を巻き込んで、DIYでつくったんですよ。
はい。その頃仕事で毎月海外に行っている状態だったので、日本にいる間だけですが、そのシェルターにいる保護犬のお散歩ボランティアを始めました。
ちなみにシェルターには2種類の動物がいるんです。ひとつは飼い主がいない、これから新しい家族を探す譲渡対象の子と、もうひとつは飼い主はいるけれど、被災の影響で生活環境が整わず、一時的に預かっている譲渡対象でない子。
お散歩ボランティアをしているうちに、1頭くらい自宅でも預かれるんじゃないかという気になってきて、友森さんに相談しました。猫との生活が大丈夫な子ということで選定してもらい、マンションでも大型犬を飼っている人が周りにいたので「タケ」という名の大型犬を預かることに決めたんです。タケは大型犬だったのですが、ものすごい温厚で猫とも仲良くなれそうでした。
──マナさんたちの、預かりボランティアの始まりが被災地で飼われていた「タケ」なんですね。
高齢だったので一生面倒を見る覚悟で預かっていたのですが、タケは預かって7ヶ月目の2014年1月の初めに体調が急変して、あっという間に亡くなってしまいました。最期は福島の飼い主さんも来てくださったので、それは本当に良かったなと思います。大型犬で「15歳だし、大往生だったね」と3時間位、救急動物病院のタケの前で話しました。
悲しんでいても殺処分は減らないので、ココを10日後に預かることにしました。その時も猫が大丈夫そうな子を選定してもらいました。ココは、2013年12月末に飼い主持ち込みで殺処分になるところを、友森さんが保健所から引き出して、ミグノンのサロンにいました。ミグノンには、シェルターで面倒見切れないような歳をとった老犬が何頭もいて、その中でココは情けない顔で埋もれていたんです。
老犬でもトレーニングはできるんです
──友森さんといえば保護動物に、ユニークな名前を付けることで有名ですが…?
ココが付けられてた名前は “しばあちゃん(柴犬+おばあちゃん)” でした(笑)。どこにいても敷物を敷いてあげると「ここ。私ここがいい。」とくるっと丸まって寝るので、名前をココに改名したんです。
脚や身体が堅くて、名前を呼んでも振り向かない、食べ物にも反応しない、匂いも嗅がない、全部が無反応でした。目も見えてるのかな? っていうくらい、目の前をただ真っすぐにしか見ていない。
タケを預かる時に、大型犬だったこともあり、犬のトレーニングを学ぶために学校に通っていたんです。そこで犬にとって、嗅覚を使わせることが大事だと学んだんですが、ココは他の犬の臭いも嗅がずに散歩をしていました。ご飯もがっつかないし、ぼーっとしてるから、犬なんだけど、この生き物なんだろう? って感じでした。
──でも今ではご飯も食べるし、おやつにもすごく反応していますね。
ドッグトレーナーに相談したら、ご飯にも反応しないなら、1〜2日食べさせなくてもいいよと言われて、ココのご飯を1日抜いてみたんです。そしたら、少し食べることへの欲求が出るようになっていき、とたんにココの目もこちらを向くようになって、おすわりもするようになりました。その状態になるまで3ヶ月くらいでしたね。犬が出来ないのではなく、人間が教えてあげないといけないだということを教わりました。
2015年1月21日でちょうど1年です。今ではギルとジョーを追いかけるほどに! 以前のココは、筋肉も弱く、フローリングの上も滑って歩けませんでした。
──今のココちゃんはリラックスしていて、マナさんたちの愛情が注がれているのが伝わってきます。ですが、ココちゃんは「一時預かりの犬」。いずれ飼いたいという人が現れる日が来ますよね。
そのときは譲渡です。最初からそのつもりです。タケの時もそうでしたが、ココもうちの子ではない、という気持ちが心のどこかにあります。ココに対しては譲渡されるのが目標なんです。
私は貰ってもらえるような、普通の犬にしてから譲渡したいと思っていたので、今のココの状態はとてもいいかんじです。健康にもなったし、人にも関心を持つようになったし、色んなことに興味が出だしています。老犬でもトレーニングはできるんですよ!!
貰ってもらいたいけど、いざその時の気持ちはわからない…です。考えたことがないですね。でも「なんでこんなに可愛いのに貰われないの!?」という気持ちもすごくあります。
──預かりボランティアと、正式譲渡では飼い方に違いがあるのでしょうか。預かりボランティアは、引き取り手が現れるまで犬猫を預かって、また次の犬猫を預かって…と繰り返していくのでしょうか。
基本的にはそうです。“殺処分”なんて言葉、口に出したくもないですが、処分される子が少しでも減ればいいなと思っています。実際、洋犬だと老犬でも貰われやすいので、預かりさんでも、どんどん犬が変わっていく人もいます。譲渡されるときは大泣きして、また預かってを繰り返している人もいます。1ヶ月……、いや1週間でも情が移りますからね。
──飼い方や期間の違いはあれど、みなさん犬や猫に対する気持ちは変わらないのですね。
うちに関しては、大人1人に対して動物は1頭以下というミグノンの規約に反しているので、もう譲渡は受けられないんです。3匹の猫がいますからね。というわけで、預かりはできるけど譲渡は受けられないし、何かあったら返さなければなりません。ただ、動物が多すぎると地震などで避難できないので理にかなってるなと思っています。
猫が暮らしやすいインテリア
──では、少し話しを変えて、インテリアについても教えてください。今の家に引っ越されたのは、ギルバートちゃんとジョージちゃんを飼いだしてから。猫を飼うという空間で気をつけていることは何ですか?
玄関の手前に、飛び出し防止用の扉をつけました。今はポピュラーですが、猫って上下運動の方が、横に動くことより運動したことになるんですね。それと猫階段。ちょうどアーティストの谷山恭子さんの作品展で見かけたものを、これは使える! と猫用につくってもらったんです。キッチン下のへっこみは、猫のごはんを置くスペースとしてつくりました。
マロンもすごく気に入ってくれて、いつもそこに番頭さんみたく座ってます。いるのかいないのかわからないくらい、そこが大好きで、そのまま寝ちゃったりして(笑)。今は在庫がなくなって、もう販売はしていないんです。
──マナさんやご主人の恭さん、人との生活のために工夫したことはありますか?
ベッドを高床式にしました。寝室で猫が走りまわると、踏まれたりほこりが舞って、旦那が喘息なのでどうにかしようと。高さのあるところで寝ているので、朝寝ぼけて降りるときが一番危なかったりしますけど(笑)。
みんなが一緒にいるところを見るともう、たまらなくなってしまいます。猫たちが一緒に寝てるかたまりとか本当に癒されるし、かわいい! 大変なのは10歳を超えたくらいから、それぞれがバラバラと病気になるので、毎月の医療費ですね。あと最近だとジョーがご飯を食べられなくなってしまい、本当はこまめに食べさせたいのですが、私たちが仕事だと、日に2回になってしまうのが気がかりです。犬もいて、猫もいて、うちは動物園みたいですけど、それはすごく楽しいことですね。
ペットがつなぐコミュニティ
──仕事も忙しく、ペットたちの世話もしたい。両立するために何かされていますか?
仕事柄出張が多いので、猫だけだった時から出張中の世話を友人にお願いしています。自分たちだけではどうしようもできないことって沢山ありますよね。ペットを飼っている人は、お互い支え合ったり、助け合える友人や仲間をもつことは、大切なことですね。
──犬猫コミュニティでは例えばどんなことがあるんですか?
同じマンションに住む友人には、出張のときや、ものすごく忙しいときに助けてもらいました。別の友人は、家族でココのお散歩をしてくれたり。「子供が犬や猫が好きだから、いつでも声かけてね」と言ってくれていて、とても心強いです。犬や猫が好きだけど今は飼えないという人や、実家にペットがいて、なかなか会えないから動物の世話をしたいっていう人って、実はたくさんいるのではないでしょうか。
──コミュニティをがあると、情報交換もできたりと心強いですね。
獣医さんもすっごく親切で、私がいろいろと不安がっていたら「そのときは、家に行くわよ!」って言ってくださって。本当に来てもらわないまでも、信頼できる獣医さんに出会うことも心の支えになりますよね。
すこしの刺激。美味しいご飯。ほどほどに仲良く
そりゃもう幸せですよー。私は結婚するまで一人暮らしをしたことがなかったので、猫を飼う前に、旦那が長い間留守だったとき、寂しくてこんな生活できないなーと思っていたんです。でも猫が来てからは、平気になりました(笑)。
──幸せ感を例えようがない、といった雰囲気ですね。
なんなんでしょうか、この感じは。友森さんがよく動物たちに「何にもできなくていいんだよ」って言っているんです。それは本当にそうだなと思います。役に立つ犬っていっぱいいるじゃないですか。でもそんなことは、できなくてもいいのかなって思ってしまいます。
例えばココは、私たちが家にいないと退屈かもしれないけど、今の彼女にとっては、このくらいの生活でもいいんじゃないかな、お互い満足しているかなと思います。ただ、外に出たときに、呼び戻しができたりとか、最低限のことだけは教えたいですね。ココは耳があまり聞こえないから、もし逃走してしまったら、呼び戻すことができないので、常に私を見るということを教えておけば、万が一何かが起きても、振り返って戻って来てくれるんじゃないかなと思っています。それで、振り返ったらおやつが出てくるって教えているんですよ。
何の役にも立たない犬だけど、最低限のことは教わって、ゆるゆると生きていけばいいんじゃないかなと思います。
──耳が聞こえなければ、“見る”ということを教えればいいんですね。
普段からコミュニケーションがとれているかが大事だと思います。特に預かり犬って、自分の家がわからないから、逃走してしまった時は放浪するしかないじゃないですか。
穏やかな”しばあちゃん”が、元気な”おばちゃん”に若返ったねっと笑っています(笑)。ココの猫背を見ていると、孤独に一匹で寝ていたのかなって想像してしまうんです。何の刺激もない世界で、背中をくるりんって丸めて独りで寝てたのかなと考えてしまいます。
うちには猫が3匹もいますが、ココは猫のことがちょっと苦手みたいなんです。でもね、お互いに良い刺激になっているんじゃないでしょうか。すこーしの刺激と、すこーしの美味しいご飯と、ほどほどに仲良く暮らしています。
──マナさんのような自然体で明るい暮らしが、人と動物の幸せな生活を生んでいるんですね。今日はありがとうございました。
ギルバート/雄 ジョージ/雄 ともに2001年生まれ
マロン/雌 2008年生まれ
ココ/雌 2001年生まれ(推定) ※ココちゃんは2015年4月に素敵な家族のもとへ正式譲渡が決まりました。
Interview, Edit Tomoko Komiyama / Photo Jun Takahashi / Translation Chiyoko Kimura
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